大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和33年(合わ)400号 判決

被告人 少年C(昭一四・一〇・一〇生)

主文

被告人を懲役三年六月以上五年以下に処する。

未決勾留日数中五十日を右の刑に算入する。

訴訟費用は被告人に負担させない。

理由

被告人は昭和三十年三月郷里の中学校を卒業して家業である百姓の手伝を約一年位して土工として働いた後一たん帰郷したが間もなく昭和三十二年三月頃再度上京し、三輪車運転手、土工などを経て昭和三十三年八月頃露店商B方に雇われてからは東京都内の祭や縁日を廻つて露店商の手伝をしていたものであるが、

第一、昭和三十三年五月初頃D外三名と共謀の上、東京都世田谷区玉川奥沢町二丁目二百九十一番地八幡小学校増築工事現場において東京都世田谷区役所建築課営繕係小池東洋が管理する建築用鉄筋約七十貫(時価一万二千円相当)を窃取し、

第二、同年十月十六日同都世田谷区鎌田町内天神様の祭礼にあたり同境内で露店を開いて水飴を売り、その傍でEが水風船を、またFが煎餅を商つていたのであるが、たまたま祭礼の演芸会見物に来ていた中学生A子(当時十四年)が連れの近所の男の子にせがまれて被告人やEの露店から買物したことから同人等と話を交したのであるが、同女の人なつこい態度に注意をひかれ、やがて演芸も終り同女が乗つて来た自転車を押しながら一人で帰宅しかかる姿を認め突嗟にその後を追いかけたところ、E及びFもつづいてその後を追い、右天神様裏の茶の木の辺で同女に追いついたので、ここに三名は互に暗黙のうちに同女を強姦しようと決意し、被告人が右側から右Fが左側から同女を中央にはさみ右Eがその自転車を押し無理に同女を連行して右天神様裏の吉祥院裏墓地内に連れ込み、同所東南隅にある橋本光太郎夫婦の墓石の東側に敷設してある平たい敷石(厚さ〇・一八米、巾〇・九二米、長さ一・二六米)の処に至り、右Eの着用していたオープンシヤツをその上に拡げ三名で同女をその上に仰向けに押倒し、ことの意外に驚き悲鳴をあげて抵抗する同女に対し「騒ぐと殺すぞ」と申向け、かつその両足及び口などを押えてその反抗を抑圧し、スカートを捲り上げてその股を開いて上に乗りかかり、被告人、E、つづいてFの順で同女を姦淫し、因て同女に対し処女膜裂傷の傷害を負わせ、

たものである。

(証拠の標目)(略)

(被告人の主張に対する判断)

被告人は当公廷で、判示第一、の窃盗の点について窃盗の犯意を否認し、仮りに有罪としても横領が成立するに過ぎない如き弁解をするので按ずるに、前掲各証拠に照すと、本件被害物件たる建築用鉄筋は、もと世田谷区より同区立八幡小学校の増築工事を請負つた玉川土建株式会社の所有であつたところ、工事途中に同会社が倒産し、工事の続行不能となつたので、同区役所において他の工事資材と共に、これを同会社から引受け、管理保管していたものであつて、被告人及び他の共犯者達は、何れも当時世田谷区役所或は玉川土建株式会社に雇われて本件鉄筋の占有保管を委託されていた者ではないことが明らかである。従つて、被告人等が右鉄筋を売却処分した行為が窃盗罪に該当するのは明かである。よつて、被告人の当時の認識の点について審究してみると、被告人は当公廷で、或は、本件鉄筋は玉川土建株式会社の下請をしていた柴原組その他の業者が玉川土建株式会社の倒産の結果、同会社に対する債権確保の目的で、他に搬出売却されないように監視していたものであつて、被告人は右柴原組の依頼によりその監視に従事していたものであると言い、或は、玉川土建株式会社の旧従業員達が、給料債権確保のため本件鉄筋が他に搬出処分されることを防止するため監視していたものであつて、被告人は右従業員等の依頼により監視に従事していた者であると、二様の供述をしているが、右の供述自体によつても被告人は本件鉄材の所有者ないし管理者からその保管を托されていたものでないことが明かであり、被告人等が本件鉄筋を午後七時頃現場から搬出して、廃品回収業者青山春吉方で同人に代金三千五百円で売却し、その売却代金を直ちに被告人等で分配した事実に鑑みるときは、被告人は外四名と共謀の上他人の占有保管に係る前記鉄材を擅に持出す意思があつたことを認めるに十分であるから窃盗の故意があつたことは明かであり被告人の右主張は之を容れることができない。

(法令の適用)

被告人の判示所為中、判示第一の窃盗の点は刑法第二百三十五条、第六十条に、判示第二の強姦致傷の点は同法第百八十一条、第百七十七条前段、第六十条にそれぞれ該当し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから、判示第二の強姦致傷の罪について所定刑中有期懲役刑を選択し、同法第四十七条本文、第十条に従い、重い強姦致傷の罪について、法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであるが、被告人は二十才に満たない少年であるから、少年法第五十二条第一、二項に則り処断すべきところ、判示第二の所為の情状について考えてみるに、被害者の実父は、被告人の身内の者の謝罪と懇請により、なんら金銭的賠償をすら受けていないのにもかかわらず罪を憎んで人を憎まずとの心境から年少の被告人の将来を憂え寛大な判決を望む旨証言するのであるが、被害者は父を大学教授にもつ健全な家庭に育つた漸く中学二年生の、未だ性交についての十分な知識をもたない明朗な少女であつて、本件発生についてもなんらの責めらるべき落度のないものであり、その人なつこい態度も全く同女の無邪気さによるものであるにひきかえ、被告人は既に性交の経験があり、本件犯行は三名共謀して帰宅の途にある純真無垢の制服の少女を犯したものであり、いたけない少女の貞操を塵芥のごとく蹂躪し被害者に終生拭うことのできない傷手を負わしめたものである点を考慮するときは、前示被害者の実父の意向にもかかわらずその罪は許し難いものと謂わねばならず、また被告人が将来更生する上においても本件についての刑事責任を果した上で涜罪の途を歩むのが相当であると考えられるので被告人を懲役三年六月以上五年以下に処することとし、刑法第二十一条に従い未決勾留日数中五十日を右の刑に算入し、訴訟費用については刑事訴訟法第百八十一条第一項但書により被告人に負担させないこととする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 岸盛一 目黒太郎 伊東秀郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例